JOURNAL
歯の妖精は本当に来るの?

— 世界の“歯にまつわる文化”について
こんにちは。歯科衛生士の八田です。
ある朝、「先生、昨日、歯の妖精が100円くれたよ!」と目を輝かせながら話すお子さんに、私たちも思わず笑顔に。
そう、乳歯が抜けるというのは、子どもたちにとっての“ひとつの冒険”であり、小さな儀式のようなもの。
そして、国や文化によってその儀式のかたちは、驚くほど多彩です。
今回は、“歯が抜けた後の世界”をテーマに、世界各国のユニークな習慣を一緒にのぞいてみましょう。
日本:「上の歯は縁の下、下の歯は屋根へ」
私たちが子どもの頃にやっていたあの風習。
「上の歯が抜けたら縁の下へ、下の歯が抜けたら屋根の上へ投げる」。
それは、歯がまっすぐに生えるようにという願いが込められたもの。
かつての日本家屋は縁側や瓦屋根が当たり前の時代。投げるという動作には“自然に還す”という意味もあったのかもしれません。
科学ではないけれど、子どもの成長を信じる文化の象徴のようにも感じられます。
アメリカ・カナダ:「Tooth Fairy」の贈りもの
欧米では、抜けた歯は枕の下へ。
すると、夜の間に“歯の妖精(Tooth Fairy)”がやってきて、歯と引き換えにコインやプレゼントを置いていってくれるのだとか。
このTooth Fairyは、1900年代初頭のアメリカで子どもの不安を和らげるために登場したキャラクター。
今では絵本や映画にもなり、お金をくれる優しい妖精として、子どもたちの夢を支えています。
最近では、日本でもTooth Fairyグッズやコインケースなどが登場しはじめ、少しずつ広がりを見せています。
スペイン・中南米:ネズミの“Ratoncito Pérez”
スペイン語圏では妖精ではなく、小さなネズミの「ラトンシート・ペレス」が登場します。
彼もまた、歯を集めてコインと交換する役目を持つキャラクター。
19世紀にスペイン王子のために書かれた童話から広まったとされています。
この物語、実はとても丁寧に作られていて、ペレスはきちんとスーツを着て、家族と一緒に町の屋根裏に住んでいるという設定。
文化の違いが見えると同時に、「歯が抜ける=成長」という価値観は、世界共通なのだと感じます。
アジアの習慣:韓国、中国、ベトナムなど
アジアでも“歯を投げる”文化は存在します。
韓国では、日本と逆に「上の歯は屋根へ、下の歯は地面へ」。これは「新しい歯が上からも下からも引っ張られて、まっすぐ生えてきますように」という願いが込められています。
中国では、歯を投げながら「カラスが持っていって新しい歯を持ってきてくれますように」と言う地域も。
ベトナムでは地中に埋めるなど、自然とのつながりを意識した風習が根付いています。
文化が違っても、“成長を喜ぶ気持ち”は同じ
世界中のどの文化にも共通しているのは、「乳歯が抜ける=大人への第一歩」という考え方。
それを祝ったり、少しのご褒美をあげたり、子どもの“体の変化”を家族全体で見守る姿勢が伝わってきます。
THE DENTALでも、そうした成長の瞬間に立ち会えることがとても嬉しく、
「抜けた歯、妖精さん来た?」「どこに投げたの?」と、診療室でのちょっとした会話が、患者さまと私たちをつないでくれます。
おわりに
歯は、ただの“硬い組織”ではありません。
抜けたり、生えたり、治療したり、白くなったり。
そこには人の生活、文化、そして記憶が刻まれています。
「抜けた歯をどうするか」という問いの先に、その国の価値観や家族の温度が見えてくるのは、とても素敵なこと。
今日もどこかで、小さな歯が抜けて、新しい物語が始まっているかもしれません。