JOURNAL
歯ブラシのない時代どうしてた?

こんにちは、歯科衛生士の本間です。
新緑がまぶしく、心地よい風が吹き抜ける季節になりましたね。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?本日はちょっと意外でおもしろい「昔の歯ブラシ事情」についてお話します。
毎日のケアに欠かせない“歯ブラシ”。でも、私たちが今のような歯ブラシを使えるようになったのは、実はここ数百年のこと。
それ以前、人々はどんなふうに歯をみがいていたのでしょうか?
今回は、そんな“昔の歯ブラシ事情”について、歴史をさかのぼりながらご紹介します。
歯ブラシの原点は「木の枝」だった
最古の歯ブラシの原型といわれるのは、「チューイング・スティック」と呼ばれるものです。
その歴史はなんと紀元前3500年ごろの古代バビロニアにまで遡ります。人々は香りのある木の枝を使って歯をこすり、清潔を保っていたのです。
特に有名なのは、「ミスワク(miswak)」と呼ばれる植物の枝です。アラビア半島や北アフリカで今なお使われている自然の歯ブラシで、アラク(サルバドーラ・ペルシカ)という木から取られます。
この枝には殺菌作用があり、歯ぐきを刺激せずに汚れを落とす効果があるとされています。また、世界保健機関(WHO)もその有効性を認めています。
昔の人々は口に入れてしばらく噛みながら先端をやわらかくし、繊維状にしてから歯を磨いていました。歯ブラシの“原始時代”ともいえる時代です。
古代エジプトの“歯磨き粉”は灰やミルラ入り!?
紀元前3000年頃のエジプトでは、すでに歯を磨く習慣がありました。
彼らは木の枝に加えて、独自の“歯磨き粉”も使っていたと考えられています。
その成分はというと…
- 焼いた卵の殻
- 動物の骨の粉
- ミルラ(抗菌作用のある樹脂)
- 灰
- 蜂蜜
現代の視点から見るとかなり荒っぽい組み合わせですが、当時の人々なりに口腔内を清潔に保つ工夫をしていたことが伝わってきます。
ちなみに、ミルラや蜂蜜は天然の抗菌剤としても知られ、傷口の消毒などにも用いられていました。
中国で“毛付き歯ブラシ”が誕生したのは15世紀
今の歯ブラシにぐっと近づいたのは、15世紀の中国。
この時代には、竹や動物の骨を柄にし、イノシシの毛を植えつけた“毛付きのブラシ”が使われていました。
この「ブラシ型歯磨き道具」は、その後ヨーロッパに伝わり、18世紀のイギリスで近代的な歯ブラシとして改良されていきます。
最初の量産型歯ブラシは、1780年、イギリスのウィリアム・アディスという人物によって考案されました。彼は刑務所にいたときに獄中で思いつき、獣毛を穴に差し込んで接着したのがはじまりだったとか。
日本の“歯ブラシ”は、なんと仏教から
日本での歯磨きの歴史も非常に古く、奈良時代(8世紀)には仏教とともに伝来したと考えられています。
僧侶たちは「楊枝(ようじ)」と呼ばれる細い木の枝を用い、口腔内を清める習慣を持っていました。
これは、宗教的な意味合いとともに衛生的な行為としても位置づけられていました。
やがて、江戸時代になると庶民の間にも「房楊枝(ふさようじ)」と呼ばれる歯磨き用の木の枝が普及します。
先端が束になっていて、ブラシのような形状に整えられ、使用後は乾燥させて繰り返し使っていました。
このころから、歯磨き粉として“塩”や“灰”を使う家庭もあり、今でいう「天然派オーラルケア」のような感覚だったのかもしれません。
現代の歯ブラシと、進化し続けるケア
1900年代に入り、ナイロン素材が開発されると、歯ブラシの世界は大きく進化します。
それまで動物の毛を使っていたものが、よりやわらかく衛生的な人工毛へと切り替えられ、使い心地や清掃力が飛躍的に向上しました。
さらに近年では、音波ブラシ・電動ブラシ・スマホ連動型のスマート歯ブラシなど、テクノロジーと融合した“歯のパートナー”が登場しています。
一人ひとりの口腔状態に合わせたケアが可能になり、まさに“パーソナライズド歯磨き時代”へと進んでいます。
歯ブラシの歴史は、「歯を大切にする気持ち」の歴史
昔の人々は、今のように便利な道具がなくても、歯を清潔に保つために工夫し、材料を選び、方法を編み出してきました。
それは、「歯は一生ものの財産」という想いが、時代や文化を越えて受け継がれてきた証です。
そして今、私たちは最適な道具と最新の知識を手にしています。
だからこそ、“正しく選び、正しく使う”ことが大切です。
まとめ:毎日の歯みがきに、少しの歴史を
何気なく手に取っているその歯ブラシの背景には、何千年にもわたる人類の知恵と努力が詰まっています。
木の枝からはじまり、イノシシの毛を経て、テクノロジーへ。
歯みがきという日常の習慣には、実はとても深い歴史があるのです。
THE DENTALでは、そんな「ケアの背景」まで含めて、患者さまに最適なオーラルケアを一緒に考えていきます。
自分にぴったりのブラシを見つけたい方、正しい使い方を知りたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。