2025.08.04 診療コラム

ワンちゃんの歯磨きが教えてくれる、“お口の健康”の本質

こんにちは。歯科衛生士の八田です。

「犬の歯磨き、していますか?」

そう聞かれてドキッとするのは、飼い主さんあるあるかもしれません。
でも実は、その問いは私たち人間にも、ちょっとした“気づき”を与えてくれるのです。

犬のデンタルケアと私たち人間の歯のケア。一見するとまったくの別物のように思えますが、実はそこには驚くほど多くの共通点があります。そして、違いがあるからこそ、より強く浮き彫りになる“お口の健康”の本質も見えてきます。

「犬も歯周病になる」って知っていましたか?

犬の歯磨きについて調べたことがある方なら一度は目にしたかもしれませんが、3歳以上の犬の約8割が歯周病というデータがあります(※日本小動物歯科研究会などの報告より)。
実際、動物病院では「口が臭い」「ごはんが食べづらそう」といった相談の多くが、歯石や歯肉炎などお口の問題に関係しています。

人と違って犬は「痛い」「しみる」とは言いません。ですが、実際にはかなり進行していることが多く、歯がグラグラしていたり、顎の骨が溶けてしまっているケースもあるのです。

こうした事例を見るたびに、私たち歯科の現場で感じるのは、「やっぱり“予防”が一番強いんだな」という原点です。

「毎日磨く」という文化は、人も犬も“学んでいく”もの

犬にとって歯磨きは本能ではありません。
嫌がる子も多いですし、最初は歯ブラシにすら触らせてくれない、なんてことも珍しくありません。
それでも、飼い主さんが少しずつ時間をかけて習慣化し、「大切なケアなんだよ」と根気よく教えることで、ようやく受け入れてもらえるようになります。

…これ、実は人の子どもや大人にもまったく同じことが言えるんです。

「歯磨きは習慣」とよく言われますが、それは正しく習慣化されてこそ機能する予防法。
自己流でなんとなく磨いていたり、夜は疲れてサボってしまったり、そうした“ズレ”が、いつの間にか虫歯や歯周病の原因になってしまうのです。

犬の歯磨きの難しさに触れることで、私たち自身のケアの姿勢を見直すきっかけにもなるのは、なんとも不思議な感覚です。

「無言のサインを見逃さない」という目線

人の歯科診療でも、痛みを訴えていない患者さんの口腔内に、意外と進行した虫歯や歯周病が見つかることがあります。

「えっ、こんなに進んでたの…?」
「全然気づかなかった…」

そんなリアクションは珍しくありません。痛みがない=健康、というわけではないのが歯のやっかいなところです。

犬の場合、言葉では訴えられない分、“におい”や“食べ方”の変化を飼い主さんがどれだけ敏感に察知できるかがカギになります。
私たち歯科の仕事でも、たとえば「歯茎の腫れ」「ブラッシング時の出血」「冷たいものがしみる」といった小さなサインを見逃さず、病気の芽を早めに摘むことが大切です。

「お口の健康=全身の健康」は、犬も人も同じ

歯周病が全身疾患に関係しているというのは、もうよく知られた話です。
糖尿病、心臓病、誤嚥性肺炎、妊娠トラブルなど、私たちの身体に与える影響は少なくありません。

実は犬でも同じで、歯周病菌が血流に乗って心臓や肝臓に影響を及ぼすケースがあります。
「お口の健康を守ることが、体全体の健康維持につながる」という考え方は、人も犬も共通。
だからこそ、歯磨きは“お口だけの話”ではないのです。

まとめ:犬の歯磨きから、私たちが学べること

犬の歯磨きがうまくいっている飼い主さんは、たいてい自分の歯の健康にも意識が高い方が多い印象です。

「うちの子の歯が気になるから、私も定期検診をちゃんと受けようと思って」
そんな声を聞くと、なんだか心が温かくなります。

わたしたちが大切な家族にしてあげたいこと。
それは、「健康でいてほしい」という思いに尽きるのではないでしょうか。
その第一歩が、「お口の中から始める健康づくり」だとしたら、それはとてもシンプルで、でも確実な選択です。

あなた自身のお口のケアも、あなたの大切な誰かのケアも。今日から一緒に見直してみませんか?

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